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コンビニの見切り販売

前の記事にも書いた,コンビニに見切り販売の禁止の裁判というのは,

コンビニの本部が参加のフランチャイジーに見切り販売(販売期限の迫っている商品を値引きして販売すること)を禁止していたところ,

それが独占禁止法上の不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として,公正取引委員会が排除措置命令を出し,それを前提としてコンビニの店長が,コンビニ本部に損害賠償を請求したというものです。

 

基本的に,コンビニはフランチャイズという形態をとっており,フランチャイザー(本部)がコンビニを運営する上でのノウハウや商品の仕入れ先,ブランドをフランチャイザー(加盟店)に提供する代わりに,ロイヤリティ(ノウハウやブランド等を使用することに対する対価)を支払うという構造になっています。

そして,コンビニの本部が,見切り販売を行った加盟店に対してフランチャイズ契約の解除など不利益な扱いをすることをほめのかして,見切り販売を行わないようにさせていたことが,優越的地位の濫用として問題となりました。

優越的地位の濫用とは,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,経済上の利益を提供させたり,相手方に不利益となるような取引条件を設定・変更したりすることです。

この規定の目的は,取引上の弱者を保護するというだけでなく(独占禁止法の目的は「競争」の保護),継続的な取引を行う際の予見可能性を保障し,当事者が合理的に行動できるようにするところにあります。

すなわち,継続的な取引を行っていく場合,一方は,設備投資をしていたり,代わりの取引先がすぐに見つからず大いに困ることになるのに対して一方の当事者はたいして困らない,という状況になることはよくあると思われます。

そのような場合に,有利な立場にいる者が,当初の契約条件にないことを一方的に要求した場合,不利な立場にいる者は取引を継続していくために要求を呑まざるを得ないということになると,当事者が合理的な計算の結果結んだ契約が無視されることになり,当事者の合理的な行動が市場に反映されなくなってしまいます。

つまり,立場の有利不利が明確な場合の継続的な取引においては,当事者の自由にやらせると,結果として自由な競争が阻害されるということになります。

今回の場合も,契約時には見切り販売をしてはいけないとの条項は無く,事後的に本部の指導員によって見切り販売をしたかどうかが監視され,行った場合には,契約の解除等をほめのかされることにより,事実上できないような状態になっていたという事例のようです。

つまり,契約時には,見切り販売をすることも念頭に入れて経営計画を建て,ロイヤリティの額にも納得していたのに対して(合理的計算),事後的に見切り販売ができなくなることによって当初計算していた儲けが得られないという状況になる。

しかし,競業避止義務等が化されていることとの関係で,契約を解除して代わりの取引先を探すこともできないため,当初想定した経営計画と異なっていても,やめることができない。

そのため,当事者の合理的な計算に基づく行動が現実に反映されず,不完全な競争しか行われないことになる。

このようなことからすると,この事例は,「優越的地位の濫用」の典型的な事例にあたるといえると思います。

あまり,弁護士になってからは経済法とのかかわりはないのですが,勉強はしていかないと駄目ですね。